初めてのインド旅行で気を付けること――混沌と魅力の狭間で

インド――この国の名前を聞いて、多くの人が「行ってみたいけど、ちょっと不安」と感じるのではないでしょうか。実際、インドはその歴史の深さ、宗教や文化の多様性、壮大な自然、そして圧倒的なスケールで訪れる人の心を強く揺さぶる国です。一方で、日本とはまったく異なる衛生環境や交通事情、人々との距離感の違いなど、慣れていないと戸惑うことも多い国でもあります。
私も、人生で一度は訪れたいと思いながら、なかなか一歩を踏み出せずにいました。しかし、ついにその機会を得て、北インドを中心に5泊6日の旅をしてきました。結果としてこの旅は、これまでのどの旅行よりも印象深く、学びの多いものになりました。ただし、事前にきちんと心構えをしておかないと、戸惑いやトラブルも起こり得るのがインドという国です。この記事では、私自身の経験をもとに、初めてインドを旅する人が気を付けるべきことをリアルにお伝えします。
インドの空港に降り立った瞬間に感じる「違い」
私の旅はデリーから始まりました。空港に到着し、ゲートを出た瞬間に感じたのは、空気の匂いと人の多さです。独特の香辛料と土埃の混ざったような空気は、まさに「異国」に来たことを五感で実感させてくれました。そして、迎えに来ていた無数の人々の喧騒と視線。最初はその熱気に圧倒され、身体がひるんでしまったほどです。ここで一番大切なのは「驚かない心」を持つこと。インドでは、空港からしてすでに混沌としたエネルギーに満ちていて、それが日常の一部になっています。人の多さや声の大きさ、近さに最初は面食らうかもしれませんが、少しずつ「そういう国なんだ」と受け入れていくことが大事です。
水と食事――胃腸を守るために気をつけたいこと
インド旅行で最も多くの人が注意すべきなのが、やはり飲食による体調不良です。私も、渡航前に何度も「水道水は絶対に飲んではいけない」と聞いていたので、ペットボトルの水を徹底して使いました。歯磨きも、うがいもすべてミネラルウォーターを使用。油断してレストランの氷をそのまま使ったりすると、思わぬ腹痛に見舞われる可能性があるため、細心の注意を払いました。
食事に関しては、屋台やローカル食堂は非常に魅力的ですが、初心者には少しハードルが高い場合もあります。私自身も初日は無理をせず、ホテルのレストランで軽めのカレーとライスを注文。しっかり火の通った料理、できればその場で作られている熱々のものを選ぶのが基本です。数日経って胃腸が慣れてきた頃に、少しずつローカルの食文化を楽しむのが理想だと感じました。
ただ、インドの料理は本当に美味しく、スパイスの奥深さに魅了されます。チキンティッカ、パニール・バターマサラ、サモサなど、一度安全な店を見つけられれば、どんどん食の楽しみが広がっていきました。
交通事情と移動手段のストレスを減らすコツ
インドの交通は、想像以上にカオスです。車、バイク、リキシャ、人、牛、犬…あらゆるものが道路に混在していて、クラクションが絶えず鳴り響いています。歩行者優先という概念はほぼなく、道路を渡るだけでも緊張の連続でした。
そんな中で頼りになるのが配車アプリ「Ola」と「Uber」です。どちらも現地で広く使われており、特に都市部ではすぐに車が手配できます。価格も明朗で、ドライバーとの交渉が不要なのは大きな安心材料でした。私は移動のほとんどをUberに頼りましたが、料金も日本に比べるとかなり安く、数キロの距離なら数百円で済むこともあります。
ただし、車が来るまでの間や、ドライバーが目的地を正しく理解しているかどうかには注意が必要。必ずGoogleマップを併用し、ルートが間違っていないか自分でも確認することをおすすめします。
人との距離感――親切さの中にある警戒心
インドの人々は総じてフレンドリーで、困っていると声をかけてくれることも少なくありません。しかし、その一方で観光客を狙った詐欺やしつこい物売りも存在します。私も何度か「無料で案内してあげるよ」と話しかけられたり、「こっちの寺院のほうがすごいよ」とタクシーのドライバーに言われたりしましたが、そういった場合は丁寧に断ることが必要です。
特に観光地周辺では、「チケットは売り切れだ」「閉まっているから代わりにいい場所を紹介する」と言って高額なサービスを勧めてくる人もいます。こうした言葉に動揺せず、自分の計画を信じて行動することが大切です。私が心がけたのは、あまり長く立ち止まらないこと、スマートフォンを見ながらうろうろしないこと、そして常に「自分の行きたい場所」と「現在地」を把握しておくことでした。
男性でも気を抜けない、現地での身の振る舞い
私は男性ですが、それでもインドでは常にある程度の警戒心を持って行動していました。治安の面で特別に危険だと感じたことはありませんでしたが、外国人観光客として目立つ場面は少なくありません。特に一人で歩いていると、物売りや客引き、写真を求めてくる人たちに頻繁に声をかけられます。
こういった場面では、曖昧な態度をとらず、はっきりと「ノー」と伝えることが重要です。断ってもしつこく追いかけてくることもありましたが、無理に振り払おうとはせず、落ち着いてその場を離れるように心がけました。
また、服装に関しても、日本での普段着がそのまま通用するわけではありません。なるべく派手な色や高価そうなブランドを避け、シンプルで現地になじむ格好を選んだ方が安心感があります。観光客として変に目立ってしまうと、不要なトラブルを招く原因にもなり得ます。
私が特に意識していたのは、現地の人々との距離感を大切にすること。フレンドリーな声かけの裏に商売の意図が隠れていることも多いため、親切心と警戒心のバランスを取りながら接するようにしていました。とはいえ、誠実で親切な人に出会う機会もあり、適度な距離感の中での会話や交流は、旅の中でも大きな思い出となりました。
トイレと衛生環境――心構えを忘れずに
インドでは、トイレの設備も日本とは大きく異なります。観光地やレストランであっても、トイレットペーパーが置かれていない場合が多く、ポケットティッシュやウェットティッシュは必須アイテムです。また、トイレの床が濡れていたり、洋式ではなくしゃがみ式の場合もあるので、最初は戸惑うかもしれませんが、すぐに慣れてきます。
また、手洗いの文化はしっかり根付いていますが、石けんがないこともあるため、アルコールジェルを常備しておくと安心です。小さな準備の積み重ねが、旅の快適さに直結します。
まとめ:旅を終えて――混沌の中で見えた人間の本質
インドは、すべてが「想定外」でできている国でした。うまくいかないことも多く、予定通りにいかない日もありましたが、その中でこそ得られる発見がありました。何より印象的だったのは、人々の生きる力。混雑の中でも笑い、喧騒の中でも祈り、毎日を力強く生きている姿が、私の中の何かを揺さぶりました。
インドは決して「快適な国」ではありません。けれど、「忘れられない国」になることは間違いありません。しっかりと準備をして、自分の心と体を守りながら旅をすれば、その分だけ得られるものは大きく、旅が終わったときにはきっと新しい価値観が芽生えていることでしょう。
