ロレックス・パトロールとは?――時計を巡る静かな戦いの舞台裏

ロレックス――その名を聞いて思い浮かべるのは、高級腕時計の代名詞、精緻な機械美、そして誰もが一度は憧れる「一生モノ」のアイテムです。しかし、その人気ゆえにロレックスは常に需給のバランスが崩れており、正規店に行ってもなかなか目当てのモデルを手に入れられないという状況が続いています。とりわけスポーツモデルは慢性的な品薄状態が続き、中古市場では正規価格を大きく上回るプレミアがつくほどです。
こうした中で生まれた現象が「ロレックス・パトロール」、通称「ロレパト」と呼ばれる行動です。これは主にロレックスの正規販売店を巡り、入荷情報や在庫状況を探ることで、狙ったモデルを“正規の価格”で手に入れようとする人々の動きのことを指します。単なる買い物の一環ではなく、もはや一種の趣味、あるいは戦略ゲームのような側面さえ持ち始めているのがこのロレパトという現象なのです。
本記事では、ロレックス・パトロールとは一体どのような行動なのか、なぜここまで一般化しているのか、そしてそれを取り巻く現実や問題点、さらには今後のロレックスの入手環境について考えていきます。
なぜロレックスは「普通に買えない」のか
まず前提として、なぜロレックスがここまで手に入りにくくなったのか。その背景には複数の要因があります。最も大きいのは世界的な需要の増加です。かつては富裕層や時計愛好家の間で親しまれていたロレックスですが、近年はその信頼性と資産性の高さから、一般のサラリーマン層や20代の若者までもが関心を寄せるようになっています。SNSの影響やインフルエンサーの発信、または暗号資産などによる新たな富裕層の出現が、この流れに拍車をかけています。
一方で、ロレックス社は品質を保つために生産数を制限しており、供給を大きく増やすという方針は取っていません。この結果、常に“需要>供給”の状況が続き、特に人気モデルであるデイトナやサブマリーナ、GMTマスターⅡ、エクスプローラーⅠなどは、正規店に入荷してもすぐに完売する状況が常態化しています。
そのため、実際に正規店で購入するためには「運」と「努力」が必要になります。そして、その“努力”の一つの形が、ロレパトなのです。
ロレパトという文化の広がり
ロレックス・パトロールとは、全国のロレックス正規販売店を定期的に巡回することを意味します。特に都市部には複数の正規店があるため、通勤や仕事の合間、または休日を使って複数店舗を回るという人も珍しくありません。一部の熱心な愛好家は、東京や大阪だけでなく、地方都市にも足を伸ばし、ロレックスの在庫を探し続けています。
実際に私も、数カ月間にわたってロレパトを続けた経験があります。朝一番で開店と同時に店を訪れたり、スタッフと顔見知りになるまで何度も通ったり、時には他の来店客と情報交換をしたりすることもありました。時計を手に入れること自体が目的であると同時に、そうした“探索の過程”が趣味として成立することも、ロレパトの特徴だと感じました。
また、ロレックス側も簡単に在庫を明かさないため、ある意味で“宝探し”のような感覚があり、そのスリルに惹かれて続けてしまうという声もよく聞きます。
正規店での購入のハードル
ロレックス正規店で時計を買うには、いくつかの障壁があります。まず、来店予約制を導入している店舗も増えており、ふらっと立ち寄るだけでは商品を見せてもらえないこともしばしばです。加えて、購入希望モデルを伝えても、すぐに「在庫はありません」と言われるのが常です。
在庫があったとしても、それを誰に売るかは店舗側の裁量に委ねられているケースが多く、初来店の客よりも、過去に複数回訪れており、信頼関係が築けている客が優先されることがあるとも言われています。中には“転売対策”として、身分証の提示や、過去の購入履歴のチェックを行う店舗も存在します。
ロレパトを取り巻く市場とグレーゾーン
ロレックスの入手難は、結果的に並行輸入店や中古市場の活性化につながっています。人気モデルであれば定価の1.5〜2倍、時には3倍以上の価格で販売されていることもあります。これがいわゆる“プレ値”と呼ばれる状態であり、投資目的で購入されるケースも少なくありません。
こうした価格差が存在することで、ロレックスの購入には常に“転売”という影がつきまといます。特に一部では、ロレックスを正規で購入して即座に転売し、数十万円の利益を得る行為が横行しており、それに対抗する形で正規店も厳しい販売管理を行うようになってきました。
ロレパトの一部がこうした「転売目的」の行動と見なされることもあり、純粋に時計を愛する人々にとっては複雑な思いを抱く原因にもなっています。
ロレックスを手に入れるという体験
ロレックスの時計には、その性能やデザイン、ステータス性はもちろん、手に入れるまでのプロセスに特別な意味があります。単に店で選んで買うだけのものではなく、時には数か月、あるいは数年かけて手に入れる、そんな物語がそこには存在します。
実際に手にしたサブマリーナは、時計としての完成度もさることながら、「この一本を得るために何度も足を運んだ」という記憶そのものが価値となっています。それは、ものを所有することの喜びを超え、「体験を所有する」感覚に近いかもしれません。
まとめ:これからロレックスを狙うなら
今後、ロレックスの入手環境が劇的に変わる可能性は低いと言われています。生産数が大きく増えることは考えにくく、人気モデルの需給バランスが崩れたまま推移する可能性が高いでしょう。むしろ、購入時の審査がより厳しくなったり、事前登録制が強化されたりする可能性さえあります。
だからこそ、今ロレックスを手に入れようと考えているなら、短期決戦を狙うよりも、長い目で見て“パートナーを探す”ような気持ちで臨むことをおすすめします。ロレパトは体力も気力も要りますが、それを乗り越えた先にある一本は、単なる高級時計以上の意味を持ってくれるはずです。
